建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」の2種類があります。どちらの許可を取得すべきかは、下請工事の規模や自社の体制によって異なりますが、選択を誤ると事業展開に大きな制約が生じることもあります。本記事では、建設業法第3条に基づく一般建設業と特定建設業の違いについて、下請契約の制限や必要な資格要件、経営事項審査への影響など、実務的な観点から詳しく解説します。自社に最適な許可区分を選ぶための判断材料としてご活用ください。
シリーズ2:一般建設業と特定建設業の違い〜第3条の区分と実務上の影響〜
1章 一般建設業と特定建設業の基本的な違い
建設業許可を取得する際に最初に選択しなければならないのが、「一般建設業」と「特定建設業」のどちらの許可を取得するかという点です。この区分は単なる名称の違いではなく、請け負える工事の範囲や必要な資格要件に大きな違いがあります。
建設業法第3条における区分の定義
建設業法第3条第1項では、建設業の許可区分について次のように規定しています。
「建設業を営もうとする者は、次に掲げる区分により、この章の定めるところにより、二以上の都道府県の区域内に営業所を設けて営業をしようとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所を設けて営業をしようとする場合にあつては当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
一 一般建設業(特定建設業以外の建設業をいう。以下同じ。)
二 特定建設業(元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事を締結する二以上の下請契約の請負代金の額の総額が政令で定める金額以上となる場合における建設業をいう。以下同じ。)」
この条文から、一般建設業と特定建設業の区分は「下請契約の請負代金の額の総額」によって決まることがわかります。建設業法施行令第2条では、この金額について次のように定めています。
「法第三条第一項第二号の政令で定める金額は、四千万円(建築一式工事の場合にあつては、六千万円)とする。」
つまり、下請契約の総額が4,000万円以上(建築一式工事の場合は6,000万円以上)となる工事を請け負う場合には、特定建設業の許可が必要となります。
一般建設業と特定建設業の概要比較表
一般建設業と特定建設業の主な違いを表にまとめると、以下のようになります。
項目 | 一般建設業 | 特定建設業 |
---|---|---|
下請契約の制限 | 下請総額4,000万円未満 (建築一式は6,000万円未満) | 下請総額の制限なし |
経営業務管理責任者 | 建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験が必要 | 同左 |
専任技術者の要件 | 実務経験者、国家資格者等 | 国家資格者または大臣認定者のみ (実務経験者は不可) |
財産的基礎 | 500万円以上の資金 | 2,000万円以上の資金 (または自己資本額が4,000万円以上) |
元請工事の制限 | 制限なし | 制限なし |
申請手数料 | 新規:9万円 更新:5万円 | 新規:9万円 更新:5万円 |
主な対象者 | 小規模な工事が中心の建設業者 下請工事が中心の専門工事業者 | 大規模工事を請け負う元請業者 多数の下請を使用する業者 |
この表からわかるように、特定建設業の方が専任技術者の要件や財産的基礎の面で厳しい基準が設けられています。これは、大規模な工事や多数の下請業者を管理する能力が求められるためです。
それぞれの許可が必要となるケース
一般建設業許可が適している場合
- 下請中心の事業展開:
主に元請業者から工事を受注し、自社の技術者・作業員で施工する場合。他社への下請発注が少ない場合は一般建設業で十分です。 - 小規模な元請工事:
元請として工事を受注しても、下請への発注総額が4,000万円未満(建築一式は6,000万円未満)の小規模工事が中心の場合。 - 専門工事業者:
電気、管、塗装などの専門工事を中心に請け負い、大規模な下請発注を行わない業者。 - 許可要件の制約:
特定建設業の専任技術者要件(国家資格者等)を満たす人材がいない場合。
特定建設業許可が必要な場合
- 大規模な下請発注:
元請として受注した工事で、下請業者への発注総額が4,000万円以上(建築一式は6,000万円以上)となる場合。 - 公共工事の元請:
多くの公共工事では、入札参加資格として特定建設業許可が求められることがあります。特に大規模な公共工事の場合はほぼ必須です。 - 大手ゼネコンの一次下請:
大手ゼネコンの一次下請として大規模工事を請け負う場合、さらに二次下請への発注額が大きくなるため、特定建設業許可が必要になることがあります。 - 将来的な事業拡大:
現時点では下請総額が基準未満でも、今後の事業拡大により大規模な下請発注が見込まれる場合は、あらかじめ特定建設業許可を取得しておくことが戦略的です。
具体的な事例
事例1:リフォーム会社A社の場合
A社は住宅リフォーム工事を専門とする会社で、年間50件程度の工事を請け負っています。1件あたりの工事金額は平均500万円〜1,500万円で、電気や設備工事の一部を下請に出していますが、1件あたりの下請総額は最大でも1,000万円程度です。A社の場合、一般建設業許可で十分対応できます。
事例2:地域のゼネコンB社の場合
B社は地方の中堅ゼネコンで、公共施設や商業施設の建設工事を請け負っています。1件あたりの工事金額は5,000万円〜3億円程度で、基礎工事、鉄骨工事、電気設備工事、空調設備工事などを下請業者に発注しています。下請総額は通常1億円を超えるため、B社には特定建設業許可が必須です。
事例3:電気工事業者C社の場合
C社は電気設備工事を専門とする会社で、大手ゼネコンからの下請工事を中心に受注しています。自社の技術者と作業員で工事を行い、他社への下請発注はほとんどありません。C社の場合、一般建設業許可で事業を展開できます。ただし、大規模な電気設備工事を元請として受注し、他の専門工事業者に下請発注する機会が増えてきた場合は、特定建設業許可の取得を検討する必要があります。
このように、一般建設業と特定建設業のどちらを選ぶかは、現在の事業内容だけでなく、将来の事業展開も考慮して判断することが重要です。次章では、下請契約に関する制限について、より詳しく解説します。
このシリーズについて
建設業法解説シリーズの概要
「実務家が解説する建設業法シリーズ 〜条文の向こう側にある実務のポイント〜」は、建設業法の条文を単に解説するだけでなく、実務上の具体的な適用例や注意点を交えながら、わかりやすく解説するシリーズです。
建設業法は建設業を営む上での基本となる法律ですが、条文だけを読んでも実務への適用方法がわかりにくい部分が多くあります。このシリーズでは、建設業許可申請の実務経験が豊富な行政書士の視点から、条文の意味するところと実際の適用場面を具体例を交えて解説しています。
シリーズ全体は以下の5部構成となっており、全15回にわたって建設業法の重要ポイントを体系的に解説していきます。
- 第1部: 許可制度の基礎(第1回〜第3回)
- 第2部: 許可要件の詳細解説(第4回〜第7回)
- 第3部: 契約と施工に関する規制(第8回〜第10回)
- 第4部: 技術者配置と現場管理(第11回〜第13回)
- 第5部: 行政処分と違反対応(第14回〜第15回)
各記事は、関連条文の引用から始まり、平易な言葉での解説、具体的な事例、実務上の注意点、よくある質問への回答、チェックリストや図解などを含め、実務に即した内容となっています。
前回記事と次回記事の案内
前回記事
前回の記事では、建設業許可制度の基本的な仕組みについて解説しました。建設業法第3条に基づく許可制度の意義と目的、許可が必要となる「500万円以上の工事」の考え方、「軽微な工事」の範囲と判断基準、国土交通大臣許可と都道府県知事許可の違い、そして無許可営業のリスクについて詳しく説明しました。
建設業許可の基本的な枠組みを理解していただくための入門編として、許可制度の全体像を把握していただける内容となっています。
次回記事
29業種の区分と複数業種の申請〜別表第一の解説と業種選択のポイント〜
次回の記事では、建設業法別表第一に定められた29の業種区分について詳しく解説します。各業種の工事内容や区分の判断基準、複数業種を申請する際のポイント、業種追加の手続きなどについて、実例を交えて説明します。
自社の事業内容に合った業種を選択することは、建設業許可申請の重要なステップです。業種選択を誤ると、本来請け負える工事が請け負えなくなるリスクもあります。次回の記事では、適切な業種選択のための判断材料を提供します。
本日の記事「一般建設業と特定建設業の違い」は、許可制度の基礎を理解するための重要なテーマです。一般建設業と特定建設業の違いを正しく理解し、自社に最適な許可区分を選択するための参考としてください。